2017年9月1日

【誠のFACT】今のアカデミアに必要な「楽観主義」

(湯浅 誠/カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役)

 

カクタスのステークホルダーは研究者なので、研究に近い人をもっと採用したいと思い、6月にパートナーの株式会社リバネスさんが主催する「キャリアディスカバリーフォーラム」 に出展してきました。このイベントの目的は、研究職を目指す若手研究者にアカデミア以外で 自分の研究を生かせる企業や職種を知ってもらい 、キャリアの可能性について考えてもらうことでした。研究者を採用したいと思う企業のみが集まる他にはないユニークなイベントで、参加者自身も各ブースに訪問し、自己プレゼンをして企業に対して何ができるかを提案するという試みで、企画自体がなかなか興味深かったです。

ポスドクの雇用問題は未だに深刻な中、日本の企業は博士人材を積極的に採用しない傾向があることが問題視され始めています。カクタスはアカデミア業界に向けたサービスを提供しているので博士人材が集まっているんじゃないかと思われがちですが、実はいわゆる「sales office」である日本オフィスは、どちらかというとアカデミアのプロというより、販売のプロ、つまりマーケティングや提案営業人材を求めてきました。

しかし、会社が成長するにつれて、必要な人材が近頃変わってきました。以前は本社主導でサービス開発を行っていましたが、日本オフィスに経験や知識が備わるに伴ってローカル主導でプロジェクトを回す機会がこの数年で増えてきました。もちろんマーケティングや営業は今でもビジネスのコアであり、当然必要な人材ですが、これからはアカデミアを熟知し、サービス開発や新規事業を任せられる人材も必要になってきます。

フォーラムでは、今まで研究者を対象に会社説明をした経験がなかったので、そもそも我々の仕事に興味を持ってもらえるか不安でしたが、当日は10名の学生さんが弊社のブースに立ち寄ってくださり、一人一人とゆっくりお話しをすることができました。ブースにきていただいた方の中の何人かはすでにカクタスでインターンやアルバイトをしていただくことに決まり、ほっとしています。やはり皆さん色々と将来のことを考え、民間でも経験をする選択も視野に入っているようです。

さて、ブースに来ていただいた方々を後日お招きして、カクタスオフィスで「オープンオフィス」という大学のオープンキャンパスのコンセプトを真似たイベントを8月8日に行いました。このイベントでは若手研究者の方をオフィスにお招きして、一緒にランチを食べながら会社説明と キャリア相談をするという緩めの会です。 我々の目的は、学生の皆さんによく知られていない弊社に実際にお越しいただいて、会社のビジョンや必要な人材をお話しし、参加者に研究サポートを企業で行うというキャリアについて本気で考えていただくことでした。当日は台風の影響があり数名当日キャンセルが出てしまいましたが、3名の学生さんがオフィスに訪れてくださいました。

スタッフと学生さんがお互いに自己紹介をしたあと、私から会社のビジョンや今後ほしい人材と彼らへの期待を説明し、弊社スタッフがモデルケースとして自身のキャリアパスを紹介しました。カクタスにもこの1年で、以前研究職についていた者や、研究者を目指し最終的にサイエンスコミュニケーションの道を選んだ者が入社していますので、研究者を目指している方々にも身近な存在であったようで、学生さんからは積極的に質問をしていただきました。

その中で気になったのが彼らの将来に対する漠然とした不安です。私の学生時代はインターネットという言葉が出始めた頃で、今とは比較にならない程すべての情報源がオフラインでしたが、現在はアカデミアの状況や研究力低下、若手の雇用問題など、学生さんにはインターネットを通じて暗い話ばかりが入って来るようです。「最近の学生は根性がない。我々の頃は不眠不休で研究に勤しんでいたのに」と嘆く先生方もいらっしゃいますが、「アカデミアには将来がないよ」とネットでもまた先輩からも散々言われ、それでも「よし、それでも自分は頑張るぞ」と思う若手研究者はどれ程いるのでしょうか?

若手の方がキャリアの方向性を考えるとき、アカデミアは確かに暗い話ばかりで、躊躇してしまう学生さんが多いのは事実ではないでしょうか。そのため引く手あまたな優秀な学生さんは真っ先に他の業界に行ってしまうかもしれません。悲観的なニュースを流し、問題を語り合うばかりではいけないと思います。これからの未来を背負っている若手研究者に夢を持ってもらい、自分も研究者になりたいと思ってもらう事は、アカデミアに携わる方々の責任でもあると思います。

カクタスではアカデミアコミュニティや科学技術政策を担う若手・中堅の有志の方々と一緒に「サイエンストークス」というイニシアチブを行なっています。モットーは「研究をもっと元気に、面白く」。サイエンストークスを設立した背景は、暗い話が先行するこの業界に明るい話題を提供したい、大変な中でも必死で頑張り、素晴らしい業績を出している方々や、研究を面白くする先駆的な活動をしている人たちをどんどん紹介し、明るいニュースを情報発信したいという思いからです。

私がこれまで出会ってきた「絶えず成長する人」は天才でも長時間労働者でもなく、常に前向きに新しい事に挑戦する人たちです。ビジネス界では、どれ程死にゆく業界だと言われている業界にも、絶えず成長している企業があります。大学もこの先数年で大きな様変わりをすると思います。近畿大学さんのように独自性を出して大きく成長されている大学もあります。この少子化の中で、同大学の受験者数はうなぎのぼりに増えていると言われています。

悲観的な話が好きなマスコミは、アカデミアのネガティブなニュースがあるとそれに飛びつき、おおごとにする傾向があります。当然問題は事実であり、問題は話し合われなければなりません。しかしアカデミアの中にいる人、アカデミアに関わる人たちも、業界の将来を憂うあまり暗い話ばかりしてしまってはいないでしょうか?悲観的な傾向は否めないと思いますし、その空気が若手の方々にも共有されているように感じます。中にいる方々は、自分達の言動が若い世代、とりわけこれからその業界に入りたいと思っている人たちに多大なる影響を与えることをもっと意識しなければいけないと思います。

先日のオープンオフィスでは、このことを痛感しました。自分達が学生さんに何かを与えたいと思い開催したイベントですが、蓋を開けてみると、学生さんたちとの交流で自分たちが多くを与えられた、そんなイベントでした。

悲観主義は成長を促しません。問題は問題として捉えながらも、楽観的で前向きであり、新しいことにチャレンジする人や、業界は、どんな状況でもよりよい道を切り開いていくと思います。私自身も、辛い時も前向きな情報発信を心がけたいなと思います。また前向きな情報発信をするためには会社も自分も成長し続けなければならないと思いました。

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