2019年9月19日

【誠のFACT】東アジアの中でプレゼンスを失いつつある日本の大学と、ラディカルな経営改革の必要性〜THE世界大学ランキング2020分析〜

(湯浅 誠/カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役)

 

9月11日にTimes Higher Education(THE)の世界大学ランキング2020が発表されました。私はここ数年、韓国・中国の大学の躍進に注目しています。昨年のRA協議会第4会年次大会で行ったランチョンセミナーでは、ランキングが劇的にアップした韓国の大学事例を取り上げてその要因を発表し、ブログでも記事を書きました。また弊社が刊行している季刊誌Blank:aの最新号は、国際化が著しい中国の浙江大学の特集を組みました。今年と昨年のデータを改めて比較していると、やはり今年も日本の大学のパフォーマンス低下が気になります。

THE世界大学ランキングは、200位までの研究機関について総合点数が出るため、大学は200位以内へのランクインを目指しており、そこから100位内、50位以内へと目標を上げていきます。韓国の大学を取材した際も「まずは200位以内へ」を目標に掲げているケースが多かったです。そこで、まずは200位以内にランクインしている東アジアの国別研究機関数をTHE2020とTHE2019で比較してみました。

以下の表をご覧ください。

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THE2020Global TOP200
23機関(中国:、韓国:、香港:5、日本:2、シンガポール:2、台湾:1)

THE2019Global TOP200
22機関(中国:、韓国:、香港:5、日本:2、シンガポール:2、台湾:1)

昨年から唯一Top200位入りの大学数を増やしたのは韓国で、躍進が続いています。中国の台頭に注目しがちですが、地道にランクアップをしているのは実は韓国の方です。

次に、東アジアの大学だけに絞ってTOP30位に注目してみましょう。

THE2020(東アジアTOP30)
30機関(中国:10、韓国:、香港:5、日本:、シンガポール:2、台湾:1)

THE2019(東アジアTOP30)
30機関(中国:、韓国:、香港:5、日本:、シンガポール:2、台湾:1)

中国、韓国のランクイン大学数は1大学ずつ増えています。一方で、日本は2大学減っています。香港、シンガポール、台湾は人口規模、大学数などの規模が小さく日本との比較が難しい、その逆に中国では国策の影響で注ぎ込まれている予算・人員の規模が大きいため比較の対象にならない、という議論は成り立つかもしれません。しかし、韓国の躍進と日本の苦戦が同時に起きている事実はこうした国の規模や条件の差では説明がつきません。なぜなら、ランクインしている日本の4大学は全て国立大学ですが、一方の韓国8大学の実に半数が私立大学であり、国の予算の影響を受けていない大学だからです。

韓国の大学の成功要因がどこにあるのかは直接各大学に聞かないとわかりませんが、韓国が強いスコアは共通しています。取り立てて顕著なのはIndustry Incomeですが、ここ数年の変化ではなく、また特に韓国の大学は産業との関わりが強いので、近年のランクアップに大きく寄与しているとは考え難いです。意外に思われますが、実はInternational Outlookがどんどん改善されています。とりわけ今回東アジアの私立大学は全てスコアが50点以上で、60点以上の機関もあります。International OutlookスコアがTHEのランキング全体に占める比率は7.5%と決して高くありませんが、国際化はCitationなど別の指標に間接的に影響を及ぼすので注目が必要です。日本の研究機関の殆どは、このInternational Outlookが 30点台です。韓国も5年前はほぼ全ての大学が30点台でしたので、この数年で相当力を入れたのだと思います。

そしてその影響か、被引用数も韓国は日本より高いスコアをみせています。東大の60.7点が日本の大学で一番高いスコアですが、東大と比較されるソウル大学が66.5点、また90点台の機関もあります。東アジア30位にランクインしている韓国8大学中、なんと5大学が東大より高いスコアです。つまり、研究の質を評価する被引用数においても、韓国は日本よりパフォーマンスが良いと言えます。

日本の大学のランキングについてネガティブな話が続いてしまいましたが、当然良い面があります。TeachingとResearchはどこの大学も他国と比較して高スコアです。この2つは高等教育機関の基礎体力と言えます。去年インタビューした、中国、韓国、シンガポールのトップ大学の方々に日本の大学の評価を問うと、「日本の大学はランキングでは苦戦しているが、本来は高い実力がありレベルが非常に高い」というコメントを何度も聞きました。いまだに東アジアでは日本以外でノーベル賞を受賞した研究者はいませんし、基礎研究の底力はダントツで高いのだと思います。

問題は、その「本来の基礎体力」をいつまで維持できるかということだと思います。人間の基礎体力が年齢と共に落ちるように、大学も若返りや改革なしでは長期にわたって実力を維持していくことは難しいのではないでしょうか。近隣諸外国の事例を学んでいると、体力を維持するために、日本の大学がやれることはまだまだ山のようにあるように思います。

大学関係者の方々にお話を伺うと、「THEは欧米大学に有利に働いている」「このランキングは日本の大学の真の実力を反映していない」とのコメントをよく聞きます。前者は確かにその通りで、研究評価は英語をベースとしているので、英米大学が圧倒的に有利です。しかし後者については、本当にそうだろうか?と疑問に感じています。恐らく世界の基準からみた今の日本の大学の実力は、ランキングの通りなのではないかというのが、グローバル企業の視点から日本のアカデミアを眺めた時の私の率直な印象です。基礎体力はまだかろうじてあるが、疲弊し息切れしていて、好転させる画期的な策をまだ見出せていない状態なのではないかと感じます。

そんな中、学長がリーダーシップをふるい、必死で大学改革を行おうとしている日本の大学もいくつかあります。大変な時代にこそ必ず強いリーダーが現れるものですし、リーダーシップなしでこの困難を乗り切るのは難しいと感じます。これからの日本の大学にとって大きな起爆剤となる経営改革とはどんなものでしょうか?例えば、怖いものなしで働けるバリバリの40代学長が現れたり、旧帝大に外国人学長が就任したりといった、今までになかったラディカルな試みをする大学が出てくれば、一気に変わっていけるのではないかなどと考えてみたりもします。立命館アジア太平洋大学は、ライフネット生命の元社長である出口治明氏が学長に就任されるなど、面白い取り組みをされていますね。また学費が一律であった国立大学でも授業料を改定している機関があります。千葉大学は値上げ分で全学生を海外留学させるという目標を掲げています。巨大組織を動かすのは並大抵の事ではありませんし、中にいる方々には様々なご苦労があると思いますが、日本の大学は今まさに大きな変革を求められる時代にいるのだと思います。

このTHEランキングの動向分析記事は毎年この時期に掲載していきたいと思いますが、数年後の記事に、「日本が奇跡の復活」というタイトルの記事を書く日がくることを夢見て、弊社のような大学を支援する企業も、情報共有や具体的な支援を通じて、できる限りのことをしていきたいと思っています。

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